どのようなスタイルでも、サム・プレコップの作品は驚きと発見に満ちている。古くはシュリンプ・ボート、90年代半ばからはザ・シー・アンド・ケイクのフロントマンとして、シカゴのアヴァン/インディペンデント・シーンの多様性を支えてきたシンガー/ギタリスト。近年はモジュラー・シンセサイザーの奏者として、オシレータ、シークエンサー、リミッター、フィルターの驚くべき組み合わせを編み出している。
その唯一無二のギタープレイでバンド、The Sea and Cakeの音に大きく貢献している。 ソロとしてもこれまで5作品アルバムをリリースしている。 またカリスマ的人気を誇るコミック『ソフボーイ』やミニマルなドローイングと絵画の作家としての顔も持つ。 サムとのパートナーシップは長く二人の絶妙なバランスで魅惑的な音を聞かせてくれる。
ソロ作品としては5年ぶり通算4枚目にあたるのが今作The Republic だ。シンセサイザーを用いたアルバムで、機械的なパターン、繰り返し、偶然の音により非常に表現豊かな世界を聞かせてくれる。サムのメロディアスで特徴的な歌詞の言い回しは彼をボーカリストとして有名にした生まれ持った才能であるが、その独特の感覚がシンセサイザーを用いた時、一味も二味も違う世界観が我々に提示される。アナログ・シークエンサーの予測不可能な幅の貢献もきい。シンセサイザー奏者としての経験を重ねて行く上で、このアルバムは彼にとって大きな飛躍の作品となった。
アルバムの前半は、アーティスト、デビッド・ハートのビデオ・インスタレーションのために制作された曲であり、ニューヨークのデビッド・ノーラン・ギャラリーにて発表された。これらの曲は、制御と自発性のバランスが絶妙で、抽象的な音/不協和音と気持ちのいいハーモニックな協和音が境界線なく繋がっている。後半では、サムのこれまでのシンセサイザー作品では聞けなかったような温かみのある誘惑的な音が登場する。これらの曲には、現代の他のモジュラー・シンセサイザー奏者のレコーディングには聞かれないような、「前に進む」感覚が感じられる。サムによると、これは2012年のThe Sea and Cakeのアルバム、The Runner の制作時にシンセサイザーを用いた時に生まれたものだと言う。The Republic はシンセサイザーという楽器をより分かりやすく身近なものに感じさせてくれる大変魅惑的な作品であるが、同時にサムは楽器の実験的な要素に敬意を表することも忘れていない。