1946年ドイツのドルトムント生まれ、1994年没。
19歳でベルリンに移住し、薬学を学ぶ。卒業後製薬会社のシェリングに勤務。並行して電子音楽へ興味を持ち、20代最初の頃をケルンで「Studio fur elektronische Musik」を学んで過ごし、ミュージック・コンクレートに対する理解とブリティッシュ・ニュー・ウェイヴへの愛情を深める。これまでにどこのシーンにも属さず、また、自身の作品を公にすることもなかった。
その音楽をヤン・イェリネックが4トラック・レコーダーにバラの断片で残されている状態で発見、『Recordings 1969-1988』として“faitiche”より2008年にリリース。2011年にはアンドリュー・ペクラーのコンパイルによってbook+CD形式の『Sonne = Blackbox (Voice and Tape Music by Ursula Bogner)』を、同じく“faitiche”より発表。このブックレットでは、Momusの寄稿によって、ウルズラ・ボーグナーは実はヤン・イェリネック自身なのではないか、ということが初めてほのめかされていた。その実体はアンドリュー・ペクラーとヤン・イェリネックによる架空のプロジェクトである。
Ursula Bogner - Speichen from Marketa VuTru on Vimeo.
<http://andrewpekler.blogspot.de/>
1973年ウズベキスタンのサマルカンド生まれ。1980年に家族とアメリカへ移住、95年以降はベルリンを拠点としている。サンプリングした弦楽器や小物、ミキサーのフィードバックよって奇妙で挑戦的な、しかし浪々とした共鳴音を生み出す。2005年にStaubgoldから『Strings + Feedback』、2007年にKrankyから『Schoolmap Cue』、2011年にDekorderから『Sentimental Favourites』など、名だたるレーベルから作品を発表し、エクスペリメンタルなアプローチながらレトロ・フューチャー的でオールド・ラウンジの実験性を抽出したアプローチと暖かみのある音色が高く評価され、『Sentimental Favourites』はQwartz Electronic Music Awardでベスト・アルバム賞を受賞。“Mutek”“Transmediale”“Unsound”等、国際的なフェスティヴァルにも多数出演。並行して映像やインスタレーション作品にも取り組んでおり、現在のところのソロ最新作『Cover Versions』(2013年)では、中古レコードから300以上のアートワークを加工してそれぞれ独立した作品に仕上げている。
ヤン・イェリネックとの親交も古く、Groupshow名義ではハンノ・ライヒトマンも交えたトリオとして3枚の作品を発表。また、12k、Editions Mego、Hapna、Senufo Editionsなどからのリリースで知られる異才、Giuseppe Ielasiとのコラボレート・アルバム『Holiday For Sampler』も2013年に発表している。
Andrew Pekler - Prelude To A Summer from Andrew Pekler on Vimeo.
<http://www.faitiche.de/>
ベルリン在住。1998年にKlang Elektronikからリリースされた、Farbenとしてのダンス・トラックでまずは注目を集める。当時としては非常にミニマルながらも繊細なゆらぎに満ちたその作品は、のちにSNDやMille Plateauxの作品群らとともにクリック・ハウスと呼ばれたムーヴメントを牽引する先駆けとなった。
2001年にはPoleことシュテファン・ベトケが主宰する~Scapeより本名名義で『Loop-finding-jazz-records』を発表、ジャズのサンプリング・ループから音のモアレのようなレイヤーを浮き上がらせ、その評価を一躍不動のものとした。イェリネックはこの頃からすでにJan Jelinek Avec The Exposuresとして架空のプロジェクトを打ち出したり(実際はヤン・イェリネック一人のプロジェクト)、Farbenの「Live At The Sahara Tahoe, 1973」ではライヴと銘打ちながらもライヴでも1973年の作品でもなかったり(アイザック・ヘイズの同名アルバムからサンプリングをフィーチャー)と、フェイクを交えながら「主体」と「客体」との境界を踏み越える試みを続けている。
現在は自身のレーベル、Faiticheを運営。Eselからのリリースで知られるサンプリング/コラージュ・アーティスト、James Din A4をリミックス+コンパイルした『Farben presents James DIN A4』も発表したばかり。また、ゲーテ・インスティトゥート・ヴィラ鴨川の招聘アーティストとして、2014年4月から7月まで京都に滞在中。
<http://www.drizzlecat.org>
東京を拠点に活動。
昨年は山口の野田神社で坂本龍一と即興セッション、TAICOCLUBの渋谷路上イベントにてパフォーマンス。
Tim Hecker/Yagya/Bvdubといった世界的なアーティストの来日のサポートを務め、夏にはFLUSSI(イタリア)、STROM(デンマーク)、MIND CAMP(オランダ)といった大型フェスへ招聘される。
アルバム「The Nothings of The North」が世界中の幅広いリスナーから大きな評価を獲得し、坂本龍一「2009年のベストディスク」にも選出されるなど、現在のシーンに揺るぎない独特の地位を決定付ける。
アイスランドではYagyaやRuxpinと共にライブを敢行。スペインのL.E.V. Festivalに招かれ、Apparat/Johann Johannson/Jon Hopkinsらと共演し大きな話題を呼ぶ。
最新作「All is Silence」は、新宿タワーレコードでSigur Rosやマイブラなどと並び、 洋楽チャート5位に入り込むなど、未だに驚異的なセールスを記録中。
FujiRock Festival'12への出演も果たし、ウクライナやベトナム、 バルセロナのMiRA Festivalへも出演。
突き抜けた個性を持ちとても稀有な場所にいながら、大自然を描くような強烈なサウンドスケープは世界中にファンを広げている。
北極圏など、極地への探究に尽きることのない愛情を注ぐバックパッカーでもある。
<http://www.drizzlecat.org>
ギターサウンドを中心に展開されるサウンドスケープ。繊細ながらも強い情感を持って鳴らされるそのサウンドは、深く静かに、時に反復し、時にいびつにその形を変えていく。
ソロやユニットでのライブの他、ダンスとの共演、ショートムービーや映像作品への楽曲提供等々、その活動は多岐に渡る。
2011年にファーストアルバム『Northern Birds』をNKR(Nomadic Kids Republic)より、またセカンドアルバム『The Night Comes Down』をshrine.jpよりリリース。京都の新鋭レーベルnight cruising初のコンピレーションアルバム『tone』の参加などを経て、2013年9月には盟友Marihiko Haraとの共作アルバム『Beyond』をマレーシアのレーベルmü-nestよりリリースした。
polarM Live "night cruising 5th anniversary" at.club metro -「Northern_」 from nightcruising on Vimeo.
<http://sjq.jp> <http://sjq.jp/sjqpp/>
魚住勇太(ピアノ)、米子匡司(トロンボーン)、ナカガイトイサオ(ギター)、アサダワタル(ドラム)、大谷シュウヘイ(ベース)によるプロジェクト。
ループを用いず、一つ一つの音と音がドミノのように連鎖反応させることで、音楽が生まれ、展開する。演奏はコンピュータなどで、生演奏をリアルタイムで音響処理を行うライブエレクトロニクスという手法で行われる。
近年は音楽を軸としながら、現代アート/クラブ/電子音楽など、領域を横断する活動を展開。サウンド・インスタレーションやワークショップ等、パフォーマンス以外にも様々なアウトプットを行っている。
2013年、映像プログラマーの神田竜をメンバーに加えたプロジェクト[SjQ++]がメディア・アートの世界的な賞である「アルス・エレクトロニカ」2013において準グランプリ受賞(デジタルミュージック部門)。国際的な注目を集める。
前売はチケットぴあ (0570-02-9999、Pコード: 233-804) 、
ローソンチケット (ローソンLoppi、Lコード:57216)、
e+ (http://eplus.jp/) でも前売りチケットを購入できます。(5/24より発売)
※前売発売場所: ぴあカウンター、セブンイレブン、サークルKサンクス、ローソン
※前売りメール予約は、info@nightcruising.jpまで、
公演日/名前/人数/連絡先を明記の上、送信下さい。
※京都メトロの前売りメール予約→ticket@metro.ne.jpでも受け付けています。
ウルズラ・ボーグナーっていったいダレ? ──2008年、それまでに本名名義、あるいはよりダンスフロア向けの名義であるファーベン(Farben)としてジャズやソウル、さらには忘れ去られたクラウトロックなどの短い断片をループさせ、そのループポイントをすこしづつズラしていくことでサンプリング・ループ・ミュージックに揺らぎやモアレの感覚を導入したヤン・イェリネックが、自身のレーベルである“faitiche”の第一弾としてリリースしたのがウルズラ・ボーグナーであった。
そのプレス・リリースにはウルズラ・ボーグナーなる人物について、以下のように記されている。
──ウルズラ・ボーグナーはこれまでずっと発見されてこなかったアーティストで、大手製薬会社のシェリングに勤める薬剤師であると同時に、Herbert Eimert(ドイツの電子音楽家。ケルンのWDR electronic music studio設立者の一人)の電子音楽講義に出席するなど、あくまで個人として電子音楽にのめりこんでいた。また、ヴィルヘルム・ライヒ(ウクライナ系ユダヤ人の精神分析家。プロレタリアートの性的欲求不満が政治的萎縮を引き起こすと説いた)のオルゴン理論に魅了され、60年代後半にはテープ録音を開始、1994年死去──
ヤン・イェリネックによれば、飛行機のフライトでたまたま彼女の息子であるセバスチャン・ボーグナーと隣あわせになったことから作品のリリースに発展したとのことだが、それにしてもそのウルズラ・ボーグナーの作品は、制作された時期とされる69年~88年の音楽としてはあまりにも謎めきすぎていた。そこでは確かに電子音楽黎明期の音楽的文脈が踏まえられていたが、しかし新しくもきこえるし古くもきこえ、それがいつの時代に作られたものなのか、まったく聴き手を煙にまくようなものだったのだから。
「こんな音楽をこの時代にやってたなんて考えられない」発表された当時にはそう主張する意見もちらほら見られたが、彼女の半生を綴った詳細すぎるライナーノーツや、時系列を追ったポートレート、また、彼女が手掛けたとされるペインティングなどのアートワークがふんだんにフィーチャーされていることによって、ウルズラ・ボーグナーは確かにかつて存在したのである、という認識が広がり、そのあまりにも音楽的タイムラインを飛び越えたサウンドに対する評価が高まっていった。
さて、本ツアーは、そのウルズラ・ボーグナーの来日公演である。もう亡くなっているのだから来日公演などできようはずもない……のだが、実はこのウルズラ・ボーグナー、ヤン・イェリネックの盟友であるアンドリュー・ペクラーとイェリネック自身による架空のプロジェクトであることが明かされ、この来日公演は、その日本初お披露目となる。
いったいなにゆえにこれほどまで手の込んだフェイクを用意したのか、それはレーベル名である“faitiche”にその鍵があるのかもしれない(factとfetishを組み合わせた造語である“factish”のドイツ語読み。「主体‐客体」という近代的二分法からの脱却を問うた、フランスの社会学者であるブルーノ・ラトゥールによって1999年提唱)。
ライヴでは、ウルズラ・ボーグナーのペインティングや写真(という設定のアート)などもフィーチャーし、「かつて確かに存在したかもしれない」ひとりの音楽家の姿が描き出されるとのこと。もし、ウルズラ・ボーグナーがほんとうにいたとしたら……。それがどのような音となるべきなのか、ぜひご体験ください。
(テキスト: 西山伸基)
METROで開催される京都公演にはAmetsub、Polar M、SjQがゲストで出演。多様な解釈で表現される電子音楽の数々を、ぜひ生で体感して下さい!